第16回日本医療・環境オゾン研究会 日本薬学会長井記念ホール H.23.4.17
犬の皮膚疾患に対するオゾン療法臨床例
○松尾直樹
野幌南どうぶつ病院、北海道江別市
要旨
痒みを主徴とする犬の慢性皮膚疾患に対してオゾン療法を実施し、その効果を検討した。オゾン療法は10-15μg/ml濃度の酸素オゾン混合ガスを用いて注腸法で行い、症例によってはオゾン水、オゾン化オイルを併用した。オゾン療法によって著効を示した4臨床例について各症例の概要、オゾン療法に至るまでの経過、オゾン療法の実施方法、具体的な効果等を示すとともに、当院における犬の慢性皮膚疾患26例に対する治療成績を示した。
キーワード: オゾン療法 犬 アトピー性皮膚炎 脂漏症
1. はじめに
皮膚疾患に対するオゾン療法は、外傷や褥創、火傷、膿瘍、糖尿病性壊疽などに対して、オゾン水、オゾン化オイル、オゾンガス浴等によって治療されており1)、その効果は高いとされている。一方、アトピー性皮膚炎に対するオゾン療法は、その可能性が指摘されている*2)が、医学、獣医学において治療報告は見当たらない。
犬アトピー性皮膚炎などの痒みを主徴とする慢性皮膚疾患は、その多くがステロイド剤や抗ヒスタミン剤をはじめ抗生剤、免疫抑制剤、犬用インターフェロン-γ、サプリメント、減感作療法、食事療法、スキンケアなどの組み合わせで治療されている。
演者は、このような疾患に対して酸素オゾン混合ガスの注腸を主体とした治療を実施し、多くの症例で効果を認めたので、その臨床例を報告する。
2. 方法およびオゾン療法臨床例
オゾン療法は、動物用オゾン発生装置(TK-20、オーテックラボ)および医療用酸素を使用して酸素オゾン混合ガスを生成し、注腸法にて実施した。また、症例によりオゾン水(デオシャワー、荏原実業)、オゾン化オイルを使用した。
各臨床例について症例の概要、オゾン療法に至るまでの経過、治療歴、オゾン療法の開始時期と治療内容、併用療法について症例毎に列記した。
治療効果は、著効、有効、やや有効、無効、悪化の5段階評価とした。また、具体的な効果の内容や特記事項についても記載した。
□ 症例 1
臨床診断名 : アトピー性皮膚炎 脂漏症
種類 : 犬 品種 : シーズー 体重 6.5kg
性別 : メス(未避妊) H9年生まれ( 13歳)
発症年齢 : 1歳前後
罹患部位 : 頭部 両ワキ 四肢内側
図1 症例1
症状 : 発症以降持続的な?痒 全身の脂漏症 皮膚炎発赤、
痒み) 頭部皮膚炎 皮膚肥厚 色素沈着 フケ
治療歴 : 発症から10年以上にわたり抗生剤 痒み止め(抗ヒスタミン剤
ステロイド剤) 定期的な薬用シャンプー 皮膚外用薬 3年前
から免疫抑制剤(シクロスポリン)毎日~1日おき
オゾン療法開始 : H21.10.17 (転院症例につき当院での治療開始も同日から)
オゾン療法 : 治療内容 オゾン注腸主体 10μg/ml×20~30cc
効果持続期間 約2週間
治療間隔 2週毎
治療回数 30回~ 現在も継続中
併用治療 : 当初は皮膚症状に応じてプレドニン シクロスポリンを数回内服
したが、オゾン療法開始前と比較して著減。最近は自宅で
の定期的なシャンプー 投薬はほとんどなし
図2 初診時(H21.10.17)左顔面
図3 維持期(H22.8.7) 同部位
図4 初診時(H21.10.17) 左ワキ
発赤 脂漏によるべたつき
図5 維持期(H22.8.7) 同部位
皮膚炎の改善 べたつき改善
オゾン療法の効果 : 著効
効果の内容 : 痒みの改善 皮膚状態の改善 被毛の改善
その他の特記事項 : 脂漏症の改善(べたつきおよび体臭が改善)
オゾン療法開始までには、多額の医療費がかかって
いたが、オゾン療法実施後は、投薬も著減し医療費
の負担が格段と少なくなった。
□症例 2
臨床診断名 : アトピー性皮膚炎
種類 : 犬 品種 : ジャックラッセル・テリア
体重 : 5kg 性別 : メス(未避妊) H18年生まれ(4歳)
発症年齢 : 1歳
罹患部位 : 頭部(眼および口周囲) 両ワキ 下腹部 両後肢
図6 症例2
症状 : 痒み 発赤 皮膚炎 脱毛 被毛失沢 夏に悪化する傾向
治療歴 :抗生剤 抗ヒスタミン剤 ステロイド剤 抗真菌剤(ケトコナゾール)
オゾン療法開始 :H22.10.7 (転院症例につき当院での治療も同日から)
オゾン療法 : 治療内容 オゾン注腸主体 10μg/ml×20cc
オゾン化オイル局所併用
効果持続期間 2週間程度 環境により異なる
治療間隔 当初週1回 2~4週毎
治療回数 10回(継続中)
併用治療 : ほとんどなし。 環境変化などで症状悪化時に皮膚外用
自宅でのシャンプー
図7 初診時 (H22.10.7)
図8 3週後(H22.10.28)
図9 4か月後(H23.2.8)
オゾン療法の効果 : 著効
効果の内容 : 痒みの改善 皮膚状態の改善 被毛の改善
発毛
その他の特記事項 : 皮膚症状の割に痒みが強く定期的な投薬を続けて
いたが、オゾン療法開始後は併用治療なしで維持
できている。1歳頃から後肢の脱毛が続いてい
たが、オゾン療法を始めてから痒みが減り、明ら
かに発毛してきた。被毛も柔らかく毛艶が良く
なった。
□ 症例 3
臨床診断名 : 脂漏症 アトピー性皮膚炎
種類 : 犬 品種 : ビーグル 体重 : 7.8kg
性別 : メス(避妊) H17年生まれ(5歳)
発症年齢 : 1歳
罹患部位 : 全身的な脂漏 頭部(アゴの下~頚部) 両ワキ 内股
症 状 : 痒み 皮膚べたつき(脂漏) 発赤 特有の脂漏臭
治療歴 : シャンプー(マラセチア用) 抗真菌剤と抗生剤投与歴あり
図10 症例3
オゾン療法開始 : H22.10.7 (転院症例につき当院での治療も同日から)
オゾン療法 : 治療内容 オゾン注腸主体 10μg/ml×30~50cc
治療開始約2カ月後にオゾンシャワー(デオシャワー)購入。
12月以降毎日オゾン水シャワー実施
効果持続期間 1~2週 注腸だけでは効果は不安定
治療間隔 注腸は当初週1回その後2週毎~不定期
治療回数 9回 オゾン水シャワーを中心に注腸も2週~1か月毎継続中
併用治療 : 皮膚状態により抗生剤、抗真菌剤(ケトコナゾール)
シャワー開始後は併用なし
図11 初診時(H2210.7) アゴの下
図12 3週後(H22.10.28) 同部位
図13 初診時(H22.10.7)左後肢
図14 維持期(H23.2.18)同部位
オゾン療法の効果 : 著効 有効 (注腸+オゾンシャワーで著効)
効果の内容 : 痒みの改善 皮膚状態の改善 被毛の改善
その他の特記事項 : 週1回の注腸では脂漏症改善が認められたが、
それ以上間隔が空くと脂漏症、皮膚炎が再発する。
オゾンシャワーを頻繁に行うことで脂漏臭や皮膚の
べたつき軽減。皮膚炎も良好となる。但し白色被毛
が茶色に変色。拭き取ると白いタオルが茶色くなる。
(図15.H23.2.4) これに対して注腸を併用す
ると、茶色の汚れが明らかに減り腹部の茶色く変色
した被毛が白くなる。(図16.H23.2.18)
図15(H23.2.4)脂漏症は改善
図16(H23.2.18)注腸併用で褐色化している被毛が白くなりタオルも汚れない
□ 症例4
臨床診断名 : アトピー性皮膚炎 脂漏症
種 類 : 犬 品種 : フレンチ・ブル 体重 : 15kg
性 別 : オス去勢 H13年生まれ(9歳)
発症年齢 : 1歳前後
罹患部位 : 両ワキ 内股 四肢肢端パット
皮膚症状 : 発赤 皮膚炎 全身の脂漏症 体臭 特に四肢パット周囲の腫脹
図17 症例4
治療歴 : 抗生剤 ステロイド 抗ヒスタミン剤 頻繁なシャンプー
特に夏期ひどくなる(毎年の繰り返し)
オゾン療法開始 : H21.10.1 (転院症例につき当院での治療も同日から)
オゾン療法 : 治療内容 オゾン注腸主体 10μg/ml×45cc
効果持続期間 : 1か月以上
治療間隔 当初1週毎 効果発現後維持は1月毎
治療回数 18回
併用治療 : 無
オゾン療法の効果 : 著効
効果の内容 : 痒みの改善 皮膚状態の改善 被毛の改善 活発化
その他の特記事項 : 毎年夏になると脂漏症で体臭がひどくなり、頻繁
にシャンプーを行っていたが、オゾン療法を始めて
そのような症状がほとんどない。足の腫れが引いて
よく歩くようになった。
図18 維持期(H22.8.10)
図19 維持期(H22.8.10)
皮膚状態良好 後肢パット 発赤少し残るが良好
結果と考察
当院でオゾン療法を行った痒みを主徴とする慢性皮膚疾患の犬26例の治療成績を図20に示した。著効または有効で臨床的に明瞭な効果が得られた症例は、全体の69.2%であった。また、副作用は全く認められなかった。この成績は、完治の難しいアトピー性皮膚炎や脂漏症などの治療成績としては大変意義のある結果と考えられる。
図20 慢性皮膚疾患26例に対するオゾン療法の治療成績
今回示した4症例は全て著効例である。症例1は、1歳からおよそ10年間投薬とシャンプーの繰り返しで特に免疫抑制剤を使用してからは毎月の経済的な負担も大きかった。オゾン療法導入以後は併用治療がほぼ不要となり、自宅での週1回のシャンプーと時々発生する皮膚炎に対する外用薬の使用である。しかしながら、治療間隔が2週間以上になると皮膚炎が再発する傾向があり、2週間隔での継続治療が必要である。
症例2は皮膚症状の割には痒みが強いのが特徴であった。被毛は乾燥傾向があり毛艶が悪く、皮膚も
やや乾燥気味であった。オゾン注腸で痒みが減少するとともに、被毛がややしっとりと柔らかくなる傾向が見られた。以前にも乾性脂漏症の症例で何例か同様な経験があり、皮膚病変はさほど悪くないが乾燥肌傾向で痒みが認められる症例に効果が認められやすい。
症例4は、過去7~8年にわたりアトピー性皮膚炎と脂漏症で投薬と頻繁なシャンプーを続けてきた犬が、オゾン療法後には皮膚炎、脂漏症ともにほとんど収まり、治療間隔が1か月以上あいても症状が悪化しない症例である。ほぼ治癒した状態で推移しているが、このように数カ月治療しなくても症状が悪化しない症例は26例中2例経験している。
また、症例1、2、4はほぼ注腸主体で著効を示しており、オゾン反応生成物による全身的な作用により効果の発現が得られたものと考えられる。
症例3は、重度の脂漏症で、注腸は有効であったがオゾンシャワーとの組み合わせでさらに効果が得られた。皮膚病の対応としてスキンケアは重要であり、付着したアレルゲンや過剰な皮脂を洗い流す意味でもオゾンシャワーの併用が奏功したと思われる。
まとめ
当院における痒みを主徴とする慢性皮膚疾患に対するオゾン療法は、69.2%の症例で臨床的に十分な効果が認められ、特に26.9%の症例で著効を示した。しかしながら、あまり顕著な効果が認められなかった症例に対してもオゾン療法と併用治療の方法を工夫することで、更なる改善の余地があるのではないかと考えている。今後さらに症例を増やして効果的なオゾン療法の方法を検討したいと考えている。
参考文献
1) Renate Viebahn-Haensler :ヨーロッパにおける最新のオゾン療法 P39-43, 日本医療・環境
オゾン研究会(2002)
2) V.Bocci : Ozone A New Medical Drug, 194 springer,(2010)